東京ディズニーリゾート(TDR)をビジネスの視点から分析する。

TDRは何故楽しいのか?その仕掛けをTDR好きの筆者が様々な視点からお話しします。

第22回:セイフティーについて(その4)

~続き

そして、何といっても行動面での安全性が最も発揮されたのが、あの東日本大震災の時のTDRの対応です。当時のTDRの対応はテレビ等にも取り上げられて大絶賛されていましたが、具体的にどういうものだったのかをお話したいと思います。

まず、地震発生後、通常ではありえませんが、園内放送がパーク中に流れてゲストに注意を促しました。その時点では既に本社に危機管理本部が組成されて、今後の対応について協議が始まっていたとのことです。

テレビやユーチューブで見ると、園内放送が始まると直ぐに、キャストがゲストに対して、建物の外へ出て、しゃがんで待つように、ジェスチャーをしながら盛んに指示している姿があります。しかも、全くあわてることなく。普通ですと、異常な事態ですから、キャストもあたふたするように思いますが、そういうことは全く見受けられず、冷静にゲストに指示を出すキャストの姿は、大きな揺れで不安に思っているゲストにとっては、さぞかし安心づけられるものだったことでしょう。

次にキャストが取った行動は、店内にある商品の中で頭を守れそうな柔らかいものを片っ端からゲストに配ることでした。「これで頭を保護して下さい」と叫んで、あのダッフィー人形さえも、惜しげもなく、ゲストに手渡していたのです。普通考えれば、商品を、しかも、人気の高いダッフィー人形を防具として使うために配るなんて考えられません。仮にあったとしても、普通の企業なら本部の許可を得てからということになり、かなりの時間がかかるはずです。しかし、TDRでは、わずか数分で行動に移しています。つまり、SCSEという行動指針が日頃から周知徹底され、ゲストの安全が何より最優先されていた証拠でしょう。

ちなみに、TDRでは、園内で年間180回もの避難訓練が行われているとのことです。一般の企業でも防災訓練等がありますが、年に1回、それも、おざなりに行われることが多いんですが、TDRのこの日の動きを見ると、如何に真剣に、かつ、実践的に行われていたかが分かります。そのため、キャストの全てが、いざという時の準備ができていたということでしょう。

その後、夕刻になると、具合の悪いことに雨が降ってきて、非常に寒くなりました。地震の揺れで不安と恐怖のゲストに寒さが押し寄せてきました。その時にTDRがとった行動は、寒さしのぎになるものなら、何でもゲストに配るということでした。商品のみならず、段ボール箱やお土産のビニール袋まで配って、少しでも寒さをしのげるようにしていたのです。また、キャストは、ゲストに、簡単な体操するように促したり、ビニール袋の隠れミッキーを探すように言ったりして、気を紛らわせたり、中にはピーターパンのパフォーマンスをして、少しでもゲストの気持ちを和らげようと様々な行動をとっていました。それも、誰にも言われるのではなく、自ら。

夜が近くなり、お腹が空いて来ます。そこで配布されたのが、温かいひじきご飯でした。TDRには、数万食分の非常食が常備されていましたので、お湯で温めることで直ぐに配ることができたのです。また、配布の仕方も、一か所で配布すると行列ができたり、人だかりになり、収拾がつかなくなりますので、ゲストはその場に座らせ、キャストが一人一人配って回ったのです。こういう状況の時にそこまでの気配りができるって凄いと思いませんか?

愈々、夜が深まると寒くなるのですが、TDRの建物はまだ安全性の確認ができていないので、館内に入ることができません。いち早く、TDSの館内は避難できる体制が整ったんですが、TDRからTDSへ行ってもらうには、一旦外へ出て、大きく遠回りをせねばなりません。しかも、地震で壊れている地面を歩きながら。そこで、TDRがとった対応は、決してゲストには見せない、バックステージを通ってTDSへ誘導する方法でした。普段ではありえないことです。しかも、その通路には、キャストが並んでゲストを励ましていたそうです。

そして、園内に取り残された数万人のゲストは無事に朝を迎え、家路へ帰って行きました。

どうですか?

この一連の行動から、TDRが、①ゲストの安全性を最優先に考えていること、②いざという時の準備が行動面、設備面からして万全であること、③マニュアルや前例に囚われない臨機応変な対応ができる、ということがひしひしと伝わってきます。

地震発生の日から、点検の為にしばらく閉園していたTDRは、4月15日、約1カ月ぶりに再開の日を迎えました。当日は1万人のゲストが入園前から行列を作って、待ちわびていたとのことです。また、その後も入場者は増加し、結局、心配された震災による営業停止の影響も軽微に終わり、その後は史上最高の入園者数を記録するに至りました。ゲストのTDRに対する評価が再開後の結果に表れているのだと思いました。

企業の本質というものは、普通の状況ではなかなか見えませんが、いざという時どういう行動をとるかということで見えてくるものです。普段は、決して表面には現れないけど、いざという時のための努力が重要なんだ、そういう姿勢をTDRの対応から学びました