東京ディズニーリゾート(TDR)をビジネスの視点から分析する。

TDRは何故楽しいのか?その仕掛けをTDR好きの筆者が様々な視点からお話しします。

第11回:パスポート導入が生み出した効果

パークに入園するにはチケットが必要です。現在のTDRのチケットは、パスポートと言って、いわゆる入園券+乗り放題のシステムになっています。ですから、入園時にパスポートを見せさえすれば、後は、追加で料金を支払うこともなく、好きなアトラクションに乗れます。

 

1983年のTDRの開園当初、チケットは、現在のような形態ではなく、平日のみは今と同じパスポートでしたが、休みの日はチケット制でした。チケットは、アトラクションのランクに応じて、A~Eまでの金額別のチケットの綴込みがビッグ10という名称でセットになって販売され、チケットがなくなれば1枚づつ園内のショップで買い足していました。そして、2003年、今のようなパスポートに一元化されました。

1983年、アメリカの女性で初めての宇宙飛行士になったサリー・ライドさんが、宇宙船に乗っている感想を聞かれ、「気分はEチケット」と言いましたが、勿論、ディズニーランドの人気の高いアトラクションに乗っているのと同じ気分ということを言い表したものです。

 

パスポートの導入は、当然、アメリカのディズニーから来た考え方ですが、TDRへ導入後、日本のテーマパークもパスポートというシステムが一般的になりました。 

昔の遊園地は、入園料を支払って園内に入り、乗り物へ乗るときは、乗り物券を別に買っていました。子供たちは遊園地に入ると直ぐに乗り物券を親にねだって買ってもらっていました。大概、10枚分で1枚のおまけの11枚綴りでした。そして、乗り物へ乗って使ってしまうと、また、親にねだり、追加でチケットを買ってもらいました。親子4人で乗り物へ乗ると、直ぐに乗り物券もなくなってしまい、次から次へと「買って、買って」と子供が親にせがんできます。そうなると、どんどんお金が無くなって行きますので、親も堪りません。もう、いい加減にして帰ろうということになるのに、子供は、まだ遊ぶと言って泣いて聞かない。こういう風景が日常でした。

 

では、パスポートになるとどうなったのでしょう?

 

パスポートとは、1回買えば、後は乗り放題という仕組みです。金額の高い乗り物も安い乗り物も自由に乗れますので子供は大喜びです。家族で何回乗っても追加でお金を出すことはありません。その結果、つぎのような効果を生み出しました。

 

第一に、お金という現実的で、生々しく感じるものを完全に忘れることができるということです。以前の遊園地ですと、乗るたびにお金が気になるので、その度にいくら楽しくても現実に引き戻されてしまいます。しかし、パスポートはいくら乗ってもお金のことは気になりません。つまり、ディズニーのビジネスモデルを具現化する現実を忘れさせる効果があるのです。行動経済学という人間の行動と経済を分析する学問でも、「人間はお金を支払う時に心の痛みを感じる」と言っています。だから、昔のチケットのようにその都度出費をすることは、人間にとって非常に苦痛な訳です。パスポートという仕組みはその出費の痛みを忘れさせてくれる、正に、夢と魔法の国に相応しいツールだと言えます。

 

第二に、いくら遊んでもお金が気になりませんので、ついつい長く遊んでしまうことになり、滞在時間が長くなります。お金のことを気にしだすと、早く帰ろうとなるのですが、パスポートですから、折角ならもう少し居ようよということになります。そうなると、当然、お腹が減ります。お腹が減ってくると、何かが食べたくなるので、飲食の売上は上がります。また、滞在時間が長くなるので、あちこちを見ているとグッズも欲しくなりますので、当然グッズの売上も上がります。TDRの滞留時間は開園当初は、6.2時間でしたが、最近では9.0時間と約3時間延びています。また、1日一人当たりの売上単価に締める構成比は飲食とグッズを併せると約60%とチケット代を上回る数字になっており、テーマパークという業種の収益的な特徴を示しています。

乗り物は乗り放題だけど、食事やグッズにお金がかかるのではないかという人もいると思いますが、食事やグッズは、人間の心理的には、チケットとは別会計ですので、それほど負担にはなりません。逆に、食事を楽しんだり、グッズを買うことで満足感が一層高まっていると言えます。

 

このように、パスポートの導入は夢と魔法の国の実現と収益効果というゲスト、運営側双方にメリットをもたらす魔法のツールとなっている訳です。

 

この仕組みを食べ放題と同じと思われると大きな間違いを起こしますので、気をつけて下さい。何故なら、食べ放題は、収入は一定ですが、お客さんが食べれば食べるほど原価がドンドン増えて行くことになり、価格の設定次第で収益を悪化させることになるからです。しかし、パスポートの場合は、原価はほぼ固定、ここに大きな違いがあります。パスポート制の導入で効果が上がる業種としては、固定費で運用ができ、かつ、滞留時間を長くすれば効果がでる施設ということになります。例えば、大きなショッピングモールのゲームセンターを一定料金で遊び放題とすれば、滞在時間が延びて、買い物単価が増えるかも知れませんね