東京ディズニーリゾート(TDR)をビジネスの視点から分析する。

TDRは何故楽しいのか?その仕掛けをTDR好きの筆者が様々な視点からお話しします。

第6回:TDRの理念と行動基準

様々なTDRの戦略や仕掛け、人材教育を語るにおいて、まず、知っておかなければならないのは、理念と行動基準です。この二つを十分理解すれば、TDRの全てが分かると言っても過言ではありません。

 

TDRの理念は「全てのゲストにハピネスを提供すること」です。そして、この理念を実現するために、全てのキャストはどう行動していくべきかという行動基準が4つ定められています。理念と4つの行動基準があるからこそ、TDRがうまく運営され、ゲストに喜ばれているのです。この理念と基準は、TDRに限らず、世界共通であり、ウオルト・ディズニーの考え方に基づいて作られたものです。

 

理念の「ハピネス」という言葉は、言い換えれば、パーク内でゲストを決して不快な気持ちにさせない、幸せな気持ちにさせるということです。

そして、4つの行動基準は、それぞれを現す英語の頭文字をとって、SCSEと呼ばれていますが、最初の「S」は、Safety(安全性)、「C」は、Courtesy(礼儀正しさ)、「S」は、Show(見せること)、「E」は、Efficiency(効率性)です。

 

行動基準のSCSEは、その順番も重要であり、優先すべき順に並んでいます。最も重要なのは、「S」、ゲストの安全性を確保することです。パーク内の安全性が確保されなければ、いくら楽しいアトラクションやショーがあっても、ゲストは楽しく過ごせません。ですから、いかなる場合でもゲストの安全を守ることが最優先とされています。

次に重要なのは、「C」、これは、ゲストに対して礼儀正しく接しなさい、言い換えれば、おもてなしの心で接しなさいということです。

その次の「S」、これは、第2回でお話したように、パークはステージであり、キャストはその配役です。ですから、ゲストに対しては、常に見て楽しんで頂くように、自分の役割を踏まえて振る舞いなさいということです。

最後は、「E」で効率性ですが、誰のための効率性でしょう?会社の効率を考えなさいと言っているのではありません。ゲストが効率良く園内を過ごせるようにしなさいということです。

つまり、行動基準は、全てはゲストの為に、キャストが行うべき行動が示されているのであり、キャストの為でも会社の為のものでもありません。

 

一つ例を挙げますと、ゲストが食事を終ったテーブルをキャストが片付ける際、足下にジュースがこぼれていたとします。普通であれば、テーブルの上を片付けて、そして足下を掃除します。何故なら、テーブルの上を片付ける時に、ゴミが足元へ落ちるかもしれないので、先にテーブルを片付ける方が効率的だからです。でも、TDRは違います。足元のジュースを拭きとるのが先です。何故でしょう?それは、ゲストが足下のジュースで滑ったりする危険性を早くなくすためです。ですから、掃除の手順は、まず、足下から行い、そして、テーブルの上。仮に、テーブルのゴミが下に落ちれば、再度足下を掃除します。つまり、掃除の効率性よりもゲストの安全性が優先されるのです。

 

こういうように、キャストは何かを行動する時に、行動基準に順番通りに物事を考えて行けば、イチイチ、先輩に尋ねなくても、自ずからとるべき行動が分かるようになっています。一般企業にも、行動基準が設定されているところも多いですが、これほど分かり易く表現されている例はないと思います。

 

そして、その行動規準は何のためにあるのかと言えば、全ては「ゲストへのハピネスを提供する」ためという理念を実現するということに集約されます。つまり、キャストの目的はゲストにハピネスを提供し、喜んで頂くことであり、そのためにはどう行動すれば良いのかが行動基準に示されているということが、誰にでもはっきりと分かるようになっています。

 

良く、TDRのサービスが素晴らしいので、膨大なマニュアルがあるとか、マニュアルがしっかりとしているんだろうと言われます。しかし、一般的な作業マニュアルは整備されていますが、ゲストにハピネスを提供するにはどうしたら良いかのようなマニュアルは存在するはずがありません。全ては、キャストが、理念と行動基準に基づき、自らが考えてとった結果が、お客様を感動させ、素晴らしいサービスをTDRでは提供してくれるという評判につながっているのです。