東京ディズニーリゾート(TDR)をビジネスの視点から分析する。

TDRは何故楽しいのか?その仕掛けをTDR好きの筆者が様々な視点からお話しします。

第22回:セイフティーについて(その4)

~続き

そして、何といっても行動面での安全性が最も発揮されたのが、あの東日本大震災の時のTDRの対応です。当時のTDRの対応はテレビ等にも取り上げられて大絶賛されていましたが、具体的にどういうものだったのかをお話したいと思います。

まず、地震発生後、通常ではありえませんが、園内放送がパーク中に流れてゲストに注意を促しました。その時点では既に本社に危機管理本部が組成されて、今後の対応について協議が始まっていたとのことです。

テレビやユーチューブで見ると、園内放送が始まると直ぐに、キャストがゲストに対して、建物の外へ出て、しゃがんで待つように、ジェスチャーをしながら盛んに指示している姿があります。しかも、全くあわてることなく。普通ですと、異常な事態ですから、キャストもあたふたするように思いますが、そういうことは全く見受けられず、冷静にゲストに指示を出すキャストの姿は、大きな揺れで不安に思っているゲストにとっては、さぞかし安心づけられるものだったことでしょう。

次にキャストが取った行動は、店内にある商品の中で頭を守れそうな柔らかいものを片っ端からゲストに配ることでした。「これで頭を保護して下さい」と叫んで、あのダッフィー人形さえも、惜しげもなく、ゲストに手渡していたのです。普通考えれば、商品を、しかも、人気の高いダッフィー人形を防具として使うために配るなんて考えられません。仮にあったとしても、普通の企業なら本部の許可を得てからということになり、かなりの時間がかかるはずです。しかし、TDRでは、わずか数分で行動に移しています。つまり、SCSEという行動指針が日頃から周知徹底され、ゲストの安全が何より最優先されていた証拠でしょう。

ちなみに、TDRでは、園内で年間180回もの避難訓練が行われているとのことです。一般の企業でも防災訓練等がありますが、年に1回、それも、おざなりに行われることが多いんですが、TDRのこの日の動きを見ると、如何に真剣に、かつ、実践的に行われていたかが分かります。そのため、キャストの全てが、いざという時の準備ができていたということでしょう。

その後、夕刻になると、具合の悪いことに雨が降ってきて、非常に寒くなりました。地震の揺れで不安と恐怖のゲストに寒さが押し寄せてきました。その時にTDRがとった行動は、寒さしのぎになるものなら、何でもゲストに配るということでした。商品のみならず、段ボール箱やお土産のビニール袋まで配って、少しでも寒さをしのげるようにしていたのです。また、キャストは、ゲストに、簡単な体操するように促したり、ビニール袋の隠れミッキーを探すように言ったりして、気を紛らわせたり、中にはピーターパンのパフォーマンスをして、少しでもゲストの気持ちを和らげようと様々な行動をとっていました。それも、誰にも言われるのではなく、自ら。

夜が近くなり、お腹が空いて来ます。そこで配布されたのが、温かいひじきご飯でした。TDRには、数万食分の非常食が常備されていましたので、お湯で温めることで直ぐに配ることができたのです。また、配布の仕方も、一か所で配布すると行列ができたり、人だかりになり、収拾がつかなくなりますので、ゲストはその場に座らせ、キャストが一人一人配って回ったのです。こういう状況の時にそこまでの気配りができるって凄いと思いませんか?

愈々、夜が深まると寒くなるのですが、TDRの建物はまだ安全性の確認ができていないので、館内に入ることができません。いち早く、TDSの館内は避難できる体制が整ったんですが、TDRからTDSへ行ってもらうには、一旦外へ出て、大きく遠回りをせねばなりません。しかも、地震で壊れている地面を歩きながら。そこで、TDRがとった対応は、決してゲストには見せない、バックステージを通ってTDSへ誘導する方法でした。普段ではありえないことです。しかも、その通路には、キャストが並んでゲストを励ましていたそうです。

そして、園内に取り残された数万人のゲストは無事に朝を迎え、家路へ帰って行きました。

どうですか?

この一連の行動から、TDRが、①ゲストの安全性を最優先に考えていること、②いざという時の準備が行動面、設備面からして万全であること、③マニュアルや前例に囚われない臨機応変な対応ができる、ということがひしひしと伝わってきます。

地震発生の日から、点検の為にしばらく閉園していたTDRは、4月15日、約1カ月ぶりに再開の日を迎えました。当日は1万人のゲストが入園前から行列を作って、待ちわびていたとのことです。また、その後も入場者は増加し、結局、心配された震災による営業停止の影響も軽微に終わり、その後は史上最高の入園者数を記録するに至りました。ゲストのTDRに対する評価が再開後の結果に表れているのだと思いました。

企業の本質というものは、普通の状況ではなかなか見えませんが、いざという時どういう行動をとるかということで見えてくるものです。普段は、決して表面には現れないけど、いざという時のための努力が重要なんだ、そういう姿勢をTDRの対応から学びました

第21回:セイフティーについて(その3)

続き~

 機械設備面では、アトラクションはゲストの入園前には、必ず試運転がされて、安全性がチェックされています。また、パーク閉園後にメンテナンスが行われることは勿論ですが、それ以外にも定期的に社内の検査部門が設備のチェックをして、不具合がないかどうかを点検しています。TDRは年間無休ですから、こういうメンテナンスも全て閉園後の作業になり、ゲストの目に見えない努力がされているのが分かります。

 カストーディアルの動きにも安全性が配慮されています。

 皆さんは、カストーディアルが地面にこぼれたジュースを拭いている姿を見たことがありますか?普通ですと、地面にこぼれたジュースはモップ等でふき取りますが、TDRのカストーディアルの掃除の仕方は違います。カストーディアルは、こぼれたジュースを見つけたら、まず、地面のジュースの上に持っているペーパーを投げつけるように置きます。そして、そのペーパーを足でグイグイこすり付けて水分を吸い取り、そのペーパーを箒でダストパンの中へ鮮やかな手つきで取り込みます。一連の動きの中でカストーディアルはしゃがんだりすることなく、全て立ったままで行われます。見た目は、足で地面をゴシゴシしたりしているので、正直あまりお行儀が良くありませんし、折角のキャストの好印象が崩れてしまいかねないような仕草です。キャストは礼儀正しいんじゃないですかと言いたくなります。でも、そこに、ディズニーの安全性へのこだわりがあります。つまり、パーク内には多くのゲストが歩いていて、しかも、マップを見たり、スマホを見たりしながら歩きますので、足下まで注意が行き届きません。その時にたまたましゃがんだキャストがいたら、躓いて転んでしまうかもしれず、危険ですね。でも、立っていればそういうことはありません。つまり、礼儀正しさよりもゲストの安全性が優先されるという訳です。

 また、食事の後片付けの順序にも安全性は考慮されています。パーク内の食事はテラスでとられることも多く、ゲストの食事後は、テーブルの上や床にゴミが散乱しています。皆さんはどういう順序で掃除をしますか?普通考えると、まず、テーブルの上を掃除し、それから床を掃除した方が、テーブルの上のゴミが床に落ちるかもしれないことを考えると効率的です。しかし、ディズニーのカストーディアルの動きは違います。まず、足下、床の掃除をし、それからテーブルの上を掃除します。何故、非効率なのにそうするのでしょう。これも、行動規準を考えると自ずから分かります。つまり、ゲストの安全性を考えた場合はまず、床をきれいにして、ゲストが歩くときに邪魔になったり、すべったりするような危険な状況をなくす方が優先されるからです。

 それから、パーク内を歩いていると、カストーディアルがベンチやゴミ箱を手で丁寧に掃除をしているのを見かけることがあります。ベンチなんかは抱え上げて裏の方まで拭いたりしているんですが、これも単に掃除をしているということではないんです。つまり、手拭きで掃除をすることにより、どこか壊れているところがないかを点検しているんです。例えば、足が壊れそうなベンチを放っておくと、ゲストが座った時に怪我をするかも知れません。そういうことがないように、掃除をする際にあえて手で拭きながら点検をしながら行っているんです。

~続く

第20回:セイフティーについて(その2)

 前回は、設備面でのセイフティーをお話しましたが、今回は、行動面から見た安全性についてお話します。

まず、駐車場でのセイフティー。これは第10回でお話しましたが、事故を防ぐために、止める角度は60度で止めやすく、しかも、前から突っ込むようになっていますので、ドライバーが苦手とされる危険なバック運転をすることはありません。また、キャストが一台一台最後まで誘導してくれますので、非常に安全です。単純に効率性を考えるのであれば、ここまですることはないのですが、TDRでは、まず安全を最優先しているのでこのような対応に自ずからなるのだと思います。

次に、入園前のリスクチェックです。入園する前にはセキュリティチェックが必ず行われます。ゲストは全員、チェックゲートで係員の人に持ち込むバッグの中身を見せてチェックを受けなければ入園できません。毎日数万人のゲストが訪れる施設でここまでのチェックを始めたのはTDRが日本で一番初めではないかと思います。ゲストにとっては、多少面倒くさいと思われるかもしれませんが、ゲストが不安なく園内ですごすためには欠かせない行為と言えます。

 

それから、ちょっと意外に思われるかもしれませんが、TDRにとっては、天候もセイフティーとは切っても切り離せない大変重要なポイントです。

TDRは風に弱いテーマパークです。どういうことかというと、風が強い時はパレード、花火、更には屋外のショーまで中止になったり、内容が変更になったりすることがあります。雨に日にというなら分かるんですが、天気が良くても風が強いとダメなんですね。私もTDRに通っていた時には、風が強いとショーがあるのかないのかヤキモキしながら待っていたものです。

何故、風が強いとだめなんでしょう?

花火についてはお分かりと思いますが、強風で火の粉が流れて近隣の住宅街に迷惑をかけることになるので、中止になります。ちなみに、TDRは自分の消防車を2台持っていることは前回にお話しました。では、ショーやパレードは何故中止になったり、内容が変更になったりするのでしょう?それは、ショーやパレードでは、強風によってあおられてゲストに危険を及ぼすようなものを使用していることがあるからです。例えば、パレードの山車(フロート)ですが、高さのある山車(フロート)もありますので、強風で風をモロにくらうと倒れたりしてしまう危険性があります。また、ショーなどで、竹馬を使った背の高いキャストが出てきたりしますが、それも強風で倒れる危険性がありますので、そういうキャストはプログラムから除外され、折角の出演場面がなくなってしまうことがあります。こういう指示は、ショーやパレードの開始直前まで、各ショーの統括責任者が天気を見ながら判断し、指示をしています。天候の状態により、様々なプログラムが用意されており、統括責任者の指示により、瞬時にプログラムを変えて、ショーやパレードが行われるんですね。折角天気が良いのに、何で中止になるのと不満を抱えるゲストの方も多いと思いますが、全てはゲストの安全を守るためなのです。

そういえば、ここまでやるのと驚いたことがありました。

TDRの15周年の時のことです。毎週のように家族で通い、アドベンチャーランドのフィエスタトロピカールというショーを何度も見ていました。年パスでショーを見慣れてくると、先ほど言ったように天候によってショーの内容が少しづつ変わることが分かってきました。雨が降ると、途中であってもショーは中止になりますので大変残念でした。強風の場合は、ショーの内容が一部代わり、竹馬の人が出てこなかったりするんですが、それ以外にも、違いがあることに気付きました。それは、フィナーレでダンサーさんが小道具として持っている日傘なんです。普通の時は開いたままで使っていますが、強風の時は閉じたままでの演出に変更されていました。また、プルートの帽子も、普通はフルーツを持った籠のような大きな帽子が、強風時には、面積の小さな帽子に変わっていました。つまり、強風で傘や帽子が吹き飛んでゲストに危険を及ぼさないようにしているんだなということが暫くして理解できたものでした。

雨が降ってきたら、ショーはすぐさま中止になるんですが、これは雨で床が濡れてダンサーさんが滑るため危険だからということだと思います。強い雨だとあきらめがつくんですが、ショーが始まる前にポツリ、ポツリと降りだすとゲストとしてはショーが見たいので何とか持って欲しいと願うのです。そういう時、キャストの人達は、扇風機でステージを乾かしたり、床に這いつくばって雑巾で水分を拭き取ったり、ベンチを雑巾でふ拭いたり、総出で一生懸命やってくれていました。これも少しでもゲストの人達に喜んでもらいたいという気持ちの現われなんだなと思って感心と感謝の気持ちで見ていたものでした。~続く。

第19回:セイフティーについて(その1)

第6回でTDRの行動規準についてお話しましたが、これからは、しばらく、行動規準である「S」「C」「S」「E」がどのように実践されているかをお話します。

そもそも行動規準というのは、企業において、役職員がどういうように行動すれば良いのか、一方、企業側からすれば、役職員にどのように行動してほしいのかを示したものです。そして、行動規準は、その企業の経営理念に沿って作られています。逆に言えば、役職員が行動規準通りに動けば、企業理念は自ずから実現できるということです。

ほとんどの大企業では、経営理念や経営方針及び行動規準というものが定められています。しかし、正直、その通りに行ってない企業も多くあり、そういう企業は結局何らかの問題を生じる(経営理念に沿わなくなるのですから当然)こととなります。また、経営理念を作った創業者が元気な内はまだ良いのですが、それが二代目、三代目に移るにつれ、徐々に創業当時の経営理念が失われ、利益優先に奔ったりしていきます。経営理念や行動規準を徹底し、維持し続けるのは極めて難しいことなんです。でも、それをやり遂げて行ける企業がお客様に選ばれた企業として勝ち残って行けるのであり、その代表格がTDRです。(他にもセブンイレブンなども経営理念が徹底されています)

TDRの行動規準は、以前もお話したように、「SCSE」と極めて簡素な内容になっています。他の企業の行動規準を見るととてもじゃないけけど、覚えきれないような字句がズラズラ並んでいるところが多いんですが、TDRは極めて簡素。だからこそ、全役職員へ浸透していくことが出来るんだと思います。しかも、簡素なので薄っぺらな内容なものかというと、極めて良く考えられていて、奥が深い。正に、お手本とすべき行動規準であると思います。

 

では、今回は、まず、「S」、つまり、安全性からお話を始めます。

 

TDRの行動規準のSCSEは重要な順番で並べてあると言いましたが、「S」安全性はTDRにとって、最も大事なものと位置づけられ、全てに優先して実践しなければならないものです。何故なら、危険な場所では楽しくないからです。人は、安全だからこそ心から楽しむことができるのです。

TDRの安全性は「設備面」と「行動面」、この二つに区分できます。

「設備面」での安全性とは、ゲストを危険な目に合わせないようパーク内の設備には様々な安全対策が施されているということです。

まず、パーク内にあちこちある岩を見て見ましょう。

一見、でこぼこになっていて、如何にも触ると怪我でもしそうな感じがしますが、実際触って見ると、岩の表面はスベスベになっています。つまり、ゲストが岩に触れて怪我をしないように加工されているのです。

また、ウエスタンランドクリッターカントリーにある木の柵ですが、先っぽが尖がった木がずらっと並んでいます。しかし、近寄って良く見て見ると、上の尖った先は全て削られていて、危なくないようになっています。

極めつけは鉄の柵です。私が知っている限りでは、ホーンティドマンションとアドベンチャーランドのフレンチクオーターの裏側の階段の2か所に鉄の柵があります。昔風に造ってあるので、先ほどの木の柵とは違って先が鋭くとがっています。柵を触って見ると鉄でできていますので、当然堅いんですが、先っぽを指で触ると・・・、あーら不思議、鉄のように見えた尖った先っぽがグニャッと曲がってしまいます。そうです、先っぽはゴムで作られていたんです。柵の柱の部分は鉄ですが、先っぽだけはゴムで作られているんです。黒く色が塗られていて境目も分からないようになっているので、触らないと全く気付かないんですね。しかも、フレンチクオーターの裏側の柵などは人があまり通ったり、触ったりするところではありませんが、このような場所にまで手を抜かない安全策が施されているのに感心しました。

また、これも細かい工夫ですが、ウエスタンランドにおいてある幌馬車ですが、その車輪に注目して下さい。きちんと車輪止めまでしてあります。決して動かないだろうと思われる設備なんですが、そこまで配慮しているんですね。このように、ゲストが怪我をせずに楽しく過ごせるよう、様々な設備の工夫がしてあります。これを探すだけでもなかなか面白いものですよ。

パーク内の柵の高さにも注意が払われています。パーク内ではゲストが写真を撮ることが多いんですが、その際、気が付かなくて足を引っ掛けて転ばないように、柵の高さは腰の高さ以上になっています。そうしておけば、後ろへ転げることはありませんよね。

また、TDR内外に植えてある樹木ですが、大きい木には全て鉄のロープで支えがしっかりとされており、強風でも倒れないようになっています。更に、大きい所で言えば、TDRの地盤は地震対策として付近の建築物と比べて、基礎となる杭が深く打ち込んであるため耐震性が優れているように作られています。

それから、これはあまり知られていませんが、オリエンタルランドは自社で消防車を2台持っています。勿論、本物です。更に、キャスト募集を見ると、職種の中にファイヤーキャストというのがあるんです。つまり、消防士さんですよね。つまり、TDRは万が一の為に自分の消防署を持っているということななんです。一般の企業であれば、防災対策としては、法令で定められた防災設備と定期的な防災訓練で対応しているのが普通ですが、TDRでは、莫大なコストかけて防災対策を行っているんです。凄くないですか?TDRで火災が起こるなんて普通考えてもほとんどありません。そのためにお金を掛けていては無駄だというのが一般的な企業の考え方でしょうが、TDRの場合は、安全性第一という行動規準があるからこそ、敢えて自前で消防団を設置しているのです。・・・・・続く

第18回:TDRの障がい者のゲストへの取組

 今回は、TDRの障がい者のゲストへの取組について考えてみます。

 TDRに行かれると車いすに乗った方等の障がい者のゲストが多いことに気が付きます。その事実が、TDRの障がい者に対する対応の評価を表した結果であると思って差し支えないと思います。つまり、TDRは障がい者の方々へ優しい、だから多くの障がい者の方々が訪れるのです。

 

 TDRの障がい者に対する基本的な姿勢が表れているのが、「障がい者」という表記です。一般的には「障害者」と表記されますが、TDRでは、「害」ではなく、「がい」となっています。そうです、「害」という文字が入ると如何にも障がい者の方々が害であるかのような悪いイメージになるので、あえてひらがな表記にしているのです。最近では、一般企業においても、「障害者」ではなく、「障碍者」などと表記するところも増えていますが、大変好ましい事だと思います。

では、TDRでは、障がい者の方々へ具体的にはどのような取組をしているのでしょう。

一般的に障がい者の方々へのサービスとして思い浮かぶのが、障がい者割引です。つまり、障がい者の方々は、健常者の方がと比べて安価に楽しめますというものです。しかし、TDRでは、障がい者割引はありません。障がい者に優しいのであれば、割引があって当然だろうと思われる人も多いと思いますが、TDRではあえて割引はしていません。

何故でしょう。

それは、『TDRでは、障がい者の方々も健常者の方々と同じように楽しんで頂けます。ですから、当然割引は致しません。』という強い意思表示の現われだと思います。つまり、それだけ、障がい者対応について自負しているという裏付けなんです。考えてみれば、同じサービスが受けられるのであれば、割引をするということは逆差別にもなりかねませんよね。

 では、どういうような対応をしているんでしょう。

 まず、障がい者(高齢者を含みます)は、キャストに言えば、「ゲストアシスタントカード」がもらえます。ゲストアシスタントカードというのは、そのカードをキャストに見せれば、アトラクションに乗る際など、キャストが様々な対応をしてくれるということです。

 私も数年前に足の悪い高齢の母とディズニーシーを訪れ、一緒にゴンドラに乗ろうということになりました。しかし、ゴンドラに乗るには橋を渡って船着き場へ行かねばならなかったのですが、足の悪い母には橋を渡るのは負担です。その時、キャストの人が声を掛けて頂き、通常の船着き場とは別の近い船着き場に案内して頂き、しかも、乗船時には、専用の補助階段を用意して頂き、問題なくゆっくりと乗船することができました。更に、感心したのは、その場所は、他の健常者の方々とは別の専用の乗り場で、しかも、一番最初に案内して頂いたことです。つまり、母も私も健常者のゲストを待たせないように気を遣いながら焦って乗ったりすることなく、安心して乗船することができたということです。障がい者の方々は何かしたいんだけど、自分達がそうすると時間がかかったり、係の人を呼んだりして、一般の人に迷惑がかかるのでやめておこうという気持ちになることがあると思いますが、TDRでは、そういう気遣いをしなくて済むように配慮してくれているのです。大変ありがたいですね。

 ただ、障がい者だからといって、優先的に乗船できるのではありません。当然、健常者と同じ待ち時間で対応しているのです。

 

 また、TDRのモンスターインクでは、車いすの方々専用の乗り場が別室に用意されていて、そこまでキャストが案内してくれます。そして、そこでゆっくりと乗り降りできるような仕掛けになっています。この動画はTDRの公式ホームページに載っていますので、是非、ご覧ください。

  ただ、新しいアトラクションについては、モンスターズインクのように別室が設置されて対応ができるのですが、残念ながら古いアトラクションにはそういう対応がありません。例えば、ホーンティドマンションですが、ここでは健常者の方々と一緒の乗り場で車いすの方をキャストが支えて乗り物へ移動させています。しかも、ホーンティドマンションを経験された方はお分かりになると思いますが、ゲストは一旦動く歩道に乗り、そして、ガイドレールを走っている動いている乗り物へ移動するようになっているため、健常者でも急いで乗らないと間に合わないと焦ることもあるようなアトラクションです。ですから、車いすの方々が乗り物へ移るには時間がかかるので、どうしても一旦乗り物を止めなければなりません。つまり、館内の全ての乗り物がストップしてしまうことになるのです。

 では、そういう時にTDRではどういう対応をとるのでしょう。

 他のゲストにとっては、急に暗闇で乗り物がストップするので、事故が起こったのかと不安になります。ですから、何等かでお伝えしないとならないんですが、そういう時には、雰囲気を壊さないような静かなトーンでこういうアナウンスが館内に流れます。「今、お化けがいたずらをしてしまったんで、ストップしてしまったんだ。しばらく、待ってるんだよ。」こういうアナウンスを流されると、止まった方もにこやかになりますし、また、止めてしまった方も負担が軽くなりますよね。素晴らしい対応だなと思います。

 

 他の対応としては、インフォメーションセンターには、触地図とキャラクターの人形が置かれ、目の不自由な方々が手で触ってパーク内とキャラクターの形を確認できるようになっていますし、耳の不自由な方々には、手話のできるキャストが配置されており、その旨を伝えると対応してくれます。

 更に、TDRのパレードルートには、2か所障がい者の方々専用の特別鑑賞エリアが設置され、車いすに座ったまま楽しめるようになっています。特に、TDSでは、車いすの方々には特別鑑賞エリアの手すりが丁度目線に入ってショーの邪魔になるので、可動式になっており、ショーがあるときはその手すりが邪魔にならないように動くような仕組みになっています。

 それから、障がい者の方々が困られるのはトイレですが、TDRも最近の一般の施設と同様広いトイレになっていて、パウチ対応もしてあります。しかし、TDRで感心するのは、便座の位置です。一般的には便座は壁側に寄って設置されていますが、TDRでは、真ん中に設置してあります。そして、補助の手すりが左右両方についています。つまり、便座に移動するときに右利きの方も左利きの方もおられるので、その両方に対応できるように設置してあるのです。当然、その分スペースを取ることとなるんですが、TDRでは、そこまでお金をかけて対応しているということなんです。ここまで、丁寧に障がい者対応をされれば、健常者と同一料金でも当然文句を言われることはないでしょう。

 全てのゲストにハピネスを提供することがTDRの経営理念ですが、障がい者への対応をみても、その理念が実践されていることが良く分かります。

 社会全体がTDRのような対応をするようになれば、障がい者の方々の行動範囲、生活範囲も広がり、より住みやすい社会になるのではないかと思います。

第17回:非日常性を生み出す遮断効果

   前々回のブログでは、外界との遮断についてお話しましたが、そもそも、何故、遮断が必要なのでしょう?

   それは、TDRのビジネスモデルである非日常性を守るためです。

 遮断については、物理的な遮断と心理的な遮断があります。物理的な遮断とは、視覚と聴覚を外界に触れさせないようにすること、また、心理的な遮断とは日常的な事柄を思い出させず、常にハピネスな気持ちにさせとくということです。

 

 同じような場所が日常でもあります。それは、映画館です。映画館では、真っ暗闇な空間にすることで、外の明るい光から視覚を遮断し、大きな音響を響かすことで聴覚を遮断してあります。だから、観客は映画に没頭することができ、映画のストーリーに感情移入し、中には主人公に成りきったり、ストーリーに感動したりすることができるのです。 

 つまり、ウオルトは、映画館と同じような環境をディズニーランドの中に作り上げて、ディズニーの世界の没頭させている訳です。これも、ウオルトが映画人たる所以です。 

 心理的な遮断、つまり、ゲストを常にハピネスにすることはどうやっているのでしょう?それは、キャストの対応です。キャストはゲストが楽しんで過ごせるように精一杯のおもてなしをします。そして、そのおもてなしがゲストにハピネスを提供し、日常を忘れさせる、これが、心理的な遮断効果です。逆に言えば、キャストの対応が悪ければ、折角、非日常の世界を楽しみにしてきたゲストを一瞬にして、現実の世界に引き戻してしまうことにもなりかねないのです。それ故、キャストの教育については、徹底して行われているのです。人財の育成については、後日詳しくお話したいと思います。

 

 また、遮断については、パーク内と外界だけではなく、パーク内でも行われています。

 TDRには、それぞれのテーマランドがあります。例えば、TDLには、ファンタジーランド(おとぎの国)、トゥモローランド(未来の国)、アドベンチャーランド(冒険の国)、ウエスタンランド(開拓の国)、トゥーンタウン(おもちゃの街)、クリッターカントリー(小動物の国)、ワールドバザールの7つです。つまり、TDLにおいては、7つの違ったテーマの映画が上映されているということになります。ということは、それぞれが、違ったストーリーや設定ですから、それが重なり合っていては、折角の雰囲気が台無しになってしまうということです。

 

 そのための工夫も様々されています。しかし、その工夫はさりげなく行われていますので、なかなかゲストには分からず、何時の間にかそのテーマランドの雰囲気に溶け込むような仕掛けになっているんです。

 その工夫をご紹介しましょう。

 まず、視覚面ですが、テーマランド毎に建物等のデザインが違い、それぞれのエリアに相応しいデザインになっています。それは、建物のような大きな物に限らず、ゴミ箱、水飲み場、消火器の置き場所、ベンチなどの小物、更に、植えてある植物や木々に至るまで、良く観察してみると全てテーマランド毎に異なっているのがお分かりになると思います。

  一般的には、こういうものは、統一化した方がコストが安くつくことは間違いありません。しかし、TDRでは、雰囲気を守るためにわざわざ莫大なコストをかけて逐一異なるデザインのものを作らせているんです。

 また、キャストの服装もエリアごとに異なります。しかも、キャストは別のエリアに入ることが基本的に禁じられています。何故なら、例えば、ウエスタンランドカーボーイの服装をしたキャストがトゥモローランドでウロウロしているのをゲストが見たらどう思うでしょう?多分、違和感を感じて、折角の雰囲気を壊してしまうことでしょう。唯一、エリア内をウロウロすることが許されているのは、掃除をするカストーディアルだけです。カストーディアルは白い制服になっており、どこのエリアも同じ格好に統一されています。

 次に聴覚です。これも、何気なく園内を歩いているだけでは気づかない、というほど自然になっているということです。TDR内にはどこへ行っても音楽が耳に入ってきますが、実はエリアごとに全て音楽の種類が違います。ワールドバザールでは行進曲風なもの、ウエスタンランドではカントリー調というように。

 しかし、エリアごとに違う音楽が重なり合い、不協和音となって耳ざわりになることはありません。音量の調節、スピーカーの配置や様々な建物を設置することで音楽をエリアごとに遮断できるように設計されているからです。しかし、ただ1か所、どうしても音が重なりある場所があったそうです。それは、アドベンチャーランドウエスタンランドの境です。では、その場所は一体どうなっているのでしょう?実際に行かれて確かめて頂きたいのですが、実は、その場所には滝があります。そして、そこには水が大きな音をたてて流れており、その音が音楽が重なり合って聞こえるのを遮っているのです。

  このように、遮断に徹底的に拘っているからこそ、夢と魔法の国の雰囲気が保たれ、楽しく過ごすことができるのです。心理的な遮断であるキャストの行動については、今度お話します。

第16回:双方向コミュニケーション

 エントランスに入ると、まず、キャストが「こんにちは」と声を掛けてくれます。エントランスだけではなく、園内どこを歩いていても、キャストから笑顔で「こんにちは」「いってらっしゃい」と声を掛けられます。

 

 でも、通常、TDRのようなサービス業の挨拶はどこでも「いらっしゃいませ」ですよね。何故、TDRでは「こんにちは」なのでしょう?

 

 それは、自分で挨拶をして見れば良く分かるのですが、「こんにちは」と挨拶されると、こちらも、つい「こんにちは」って言いますよね。じゃあ、「いらっしゃいませ」と挨拶されるとどうでしょう。まあ、軽く「どうも」程度に会釈するくらいです。つまり、「こんにちは」と挨拶することで、ゲストと双方向の会話、つまり、コミュニケーションが生まれるんです。ゲストをおもてなしするのにコミュニケーションはかかせません。少しでもゲストとお話をすることで、ゲストへの関心を高め、おもてなしをする気持ちを伝えてるのです。

 

 ディズニーが双方向のコミュニケーションを如何に大事にしているかの例をいくつか挙げてもましょう。

 

 たまたま誕生月にゲストが入園して、キャストにその旨を伝えると、お誕生日シールがもらえます。それを胸に張っておくと、キャストが見つけるたびに、「お誕生日おめでとう!」と声を掛けてくれます。ゲストは皆にお祝いされてハッピーな気分になれます。これも双方向コミュニケーションをとることでゲストにハピネスを感じてもらうサービスです。

 

 次は、自動販売機です。現在、TDR(正確にはTDL)には自動販売機が3台設置してあります。しかし、数年前まで自動販売機はパーク内に1台もありませんでした。ゲストとしては、自動販売機があった方が便利と思うのですが、何故でしょう?これも、ディズニーのゲストとのコミュニケーションへのこだわりです。自動販売機では、機械で買ってしまうので、人と人が触れ合うことができません。それだけコミュニケーションが取れなくなってしまいますし、おもてなしができないからです。しかし、自動販売機がない弊害として、夏の暑い時に、ゲストがペットボトル一本買うのに長い列で30分も待たなければならないような状況になってしまったため、止むなく、自動販売機をパーク内に設置したのです。ただ、そこは、デイズニーらしいのですが、あくまでデザインは自動販売機らしくなく、それぞれのテーマランドに相応しいデザインの特別仕様になっており、商品が見えるスペースも極力小さくされています。現在、トゥモローランドには、ロボットの形をしたもの、ウエスタンランドには、木製のもの、ファンタジーランドには、ティーポットを模ったものがそれぞれ置いてあります。

 

 また、これも、あまり気づかないんですが、パーク内には普通の遊園地にあるような案内板があまりありません。ちょっと考えると、案内板が沢山あった方が親切のように思えますが、ディズニーの考えは違います。案内板がなければ、ゲストはキャストに尋ねます。そうすることでゲストのコミュニケーションが取れるきっかけとなるのです。しかし、もし、キャストが聞かれてもスムーズに応えられないようでは折角のコミュニケーションも逆効果になります。ですから、TDRでは、キャストに対し、パーク内の事を尋ねられても何でも対応できるよう徹底的に教育をしているのです。案内板がないのは、TDRで分からないことは何でもキャストに聞いて下さいというメッセージだと思います。